2014年6月26日木曜日

年次有給休暇 その1

今年の初めに年次有給休暇について投稿(先日、削除)してから約半年が過ぎた。この間の研修や学習の中でいくつか修正もしくは整理する必要が出てきている。


修正若しくは整理する必要があるのは、主に労働日と通常賃金についての考え方なのだが、かなり学習したつもりだったのだが、不十分だったと言わざるを得ない。


特に、夜勤を伴う場合の年次有給休暇については修正する必要があると考えている。そこで、労働法コンメンタールを参考にしながら何回かに分けて投稿したい。


まず、今回は労働日の考え方である。労働基準法上、労働日とは、原則として暦日計算による。従って、夜勤の場合、夜勤明けの日の勤務を免除したとしても休日とはならない。


18時から翌日の9時までのような夜勤勤務の場合の年次有給休暇を考えると、一勤務が属する二暦日は二労働日と計算され、もしこの夜勤勤務の免除としての年次有給休暇は二労働日とカウントされる。

一方、この労働日の考え方は、労働時間を計算する場合と少し違うので、注意が必要である。つまり、原則は暦日計算によるが、夜勤勤務のような場合は、例外として取り扱われる。


労働時間を考える場合の行政解釈は、労働法コンメンタールによれば以下のとおりである。
「他の条項におけると同様に、『一日』とは、原則として、午前零時から午後一二時までのいわゆる暦日を意味する。」。「特別な規定がない以上、それは民法上の一般原則に従って、午前零時から午後一二時までの意であると解すべきである」。


「しかしながら、一勤務が二暦日にまたがる場合をどのように解するかという問題がある。(中略)
これについて、解釈例規は、『継続勤務が二暦日にわたる場合には、たとえ暦日を異にする場合でも一勤務として取り扱い、当該勤務は始業時刻の属する日の労働として、当該日の『一日』の労働とする』(其発第一号)。」つまり、これは、あくまで例外なのである。


この労働日の考え方の原則と例外を混同してはならないのである。当たり前ではあるが、年次有給休暇の場合も原則が生きるのである。




2014年6月20日金曜日

退職金と借入金の相殺  その3

退職金を含む賃金の一部の支払いを留保する場合、つまり賃金の一部を控除して支払うことができるかという判例がどうなっているかについて、以下労働法コンメンタールに出てくる判例等を参考にしながら検討する。


これについても、昭和36年5月31日日本勧業経済会事件大法廷判決によれば、「同条項(労基法第24条1項;引用者)は、労働者の賃金債権に対しては、使用者は、使用者が労働者に対して有する債権をもって相殺することを許さないとの趣旨を包含するものと解するのが相当である。このことは、その債権が不法行為を原因としたものであっても変わりない。」と判示している。


つまり、相殺は駄目であるということを言っているのであるが、ではどんな場合でもダメなのかといえば、そうでもない。


これは、相殺ではなく退職金の放棄事案だが、昭和48年1月19日シンガー・ソーイング・マシーン・カンパニー事件最高裁第2小法廷判決を見てみる。これによれば、「もっとも、右全額払の原則の趣旨とするところなどに鑑みれば、右意思表示の効力を肯定するには、それが上告人(労働者;引用者)の自由な意思に基づくものであることが明確でなければならないと解すべきである」と判示している。


このシンガー・ソーイング・マシーン・カンパニー最高裁判決では、反対意見もあり、その意見の中で「本件で問題となったような、相殺の合意または使用者からの要請ないし働きかけによる放棄については、使用者の勢威によって抑圧されたものでなく、労働者の真に自由なる意思に出た場合にかぎって、その効力が認められるべきであ」ると述べている。


いずれにせよ、相殺や放棄は全くダメといっているわけではないが、かなりハードルは高いと言わざるを得ないのではないかというのが、私の結論である。

2014年6月17日火曜日

退職金と借入金の相殺  その2

退職金が労働基準法上の賃金にあたるかについて、次に検討する。労働基準法上の賃金の定義は、以下のとおりである。

第十一条   この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。
 
 
ここで、検討する内容としては、退職金が「労働の対償」に当たるかということになる。行政解釈によれば、「発生的には恩恵的なものにみられる同じ見舞金であっても、その支給について、労働協約、就業規則、労働契約等によってあらかじめ支給条件が明確にされたものは、これによって使用者はその支払義務があり、したがって労働者に権利として保障されているわけであるから、その見舞金は労働の対償と認められ、賃金として保護することが相当である」。(其発第17号)
 
 
「このことは、退職金についても同様であり、使用者が労働条件の一つとして退職金について定めをする場合には、必ず就業規則に、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項を記載しなければならないが、労使間にあらかじめ支給条件が明確に定められ、その支給が法律上使用者の義務とされている退職金は本条の賃金であり、(労働基準法)第二四条第二項の「臨時の賃金等」である」。(其発第17号)
 
 
 
以上のとおり、退職金も労働基準法上の賃金であるので、借入金との相殺は、労働基準法第二四条の全額払いの原則に違反する。したがって、相殺はできないのである。次回で、判例はどうなっているかを見てみることにする。
 
 
 
 
 

2014年6月13日金曜日

退職金と借入金の相殺  その1

先日、退職金を払う際に、会社に借入金があるので、それを相殺して支払うことの是非についての質問があった。結論から言えば、労働基準法上それはできないという回答になる。以下、その理由を解説したい。


一般的に知られているところでは、賃金と借金は相殺できない。それは、労働基準法第24条に違反するからである。その労働基準法第24条の条文を以下掲げる。


(賃金の支払)
第二十四条  賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

2 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。


どの内容に違反するかといえば、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」中の「その全額を支払わなければならない」というところに違反するのである。いわゆる全額払いの原則に違反する。もっとも、社会保険料や源泉所得税など法令に別段の定めがある場合や労使協定がある場合は、控除できるのだが、借金の場合は、この別段の定めにない。


では、退職金の場合はどうか。問題となるのは、この退職金が賃金にあたるかということである。もし、退職金が労働基準法上の賃金でなければ、「全額払いの原則」から外れることになる。この問題の検討を次回に行う。