2014年6月20日金曜日

退職金と借入金の相殺  その3

退職金を含む賃金の一部の支払いを留保する場合、つまり賃金の一部を控除して支払うことができるかという判例がどうなっているかについて、以下労働法コンメンタールに出てくる判例等を参考にしながら検討する。


これについても、昭和36年5月31日日本勧業経済会事件大法廷判決によれば、「同条項(労基法第24条1項;引用者)は、労働者の賃金債権に対しては、使用者は、使用者が労働者に対して有する債権をもって相殺することを許さないとの趣旨を包含するものと解するのが相当である。このことは、その債権が不法行為を原因としたものであっても変わりない。」と判示している。


つまり、相殺は駄目であるということを言っているのであるが、ではどんな場合でもダメなのかといえば、そうでもない。


これは、相殺ではなく退職金の放棄事案だが、昭和48年1月19日シンガー・ソーイング・マシーン・カンパニー事件最高裁第2小法廷判決を見てみる。これによれば、「もっとも、右全額払の原則の趣旨とするところなどに鑑みれば、右意思表示の効力を肯定するには、それが上告人(労働者;引用者)の自由な意思に基づくものであることが明確でなければならないと解すべきである」と判示している。


このシンガー・ソーイング・マシーン・カンパニー最高裁判決では、反対意見もあり、その意見の中で「本件で問題となったような、相殺の合意または使用者からの要請ないし働きかけによる放棄については、使用者の勢威によって抑圧されたものでなく、労働者の真に自由なる意思に出た場合にかぎって、その効力が認められるべきであ」ると述べている。


いずれにせよ、相殺や放棄は全くダメといっているわけではないが、かなりハードルは高いと言わざるを得ないのではないかというのが、私の結論である。

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